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陸上十種競技 日本記録保持者 右代啓祏 (2/2)

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掲載日:2015.06.05

応援を力に変えて


2012年にはロンドン五輪に出場しています。
日本人が十種競技に出場したのは1964年の東京五輪に自国開催枠で出場して以来48年ぶりでした。僕は標準記録を突破して出場して、結果は20位でした。約8万人という超満員の観客の中での競技で、「こんなに楽しくできたのは初めてだ、この舞台でメダルが取れたら最高だ」と思って、2年後のリオ五輪でメダルを、という目標を立てました。

五輪の十種競技で入賞した日本人は・・・
いません。でも、五輪という大舞台でも海外の選手に圧倒されなかったことで「このまま自分の能力を高めていけば世界で対等に戦えるかもしれない!」と思えたのです。今季は世界ランク6位ですし、あと2年あればメダルが取れるくらいのところまで持っていけるのではと。

いま陸上競技では100m走が花形で注目されていますが、僕は十種競技も価値のある種目だと思っています。選手同士の友情だったり、試合に向けての過ごし方だったりと、競技を通じてドラマがあるからです。最近(十種競技元日本チャンピオンの)武井壮さんがメディアで活躍されていますが、武井さんが現役のチャンピオンだと勘違いしている人もいますよね(笑)。

武井さんには僕が3年前に日本記録を出した時にコーチをしてもらったのですが、武井さんが有名になることで十種競技の知名度をアップさせてくれているので、僕もその良い流れに乗って、陸上選手だけでなく、一般の人にも十種競技というスポーツを知ってもらって、応援されたいです。

五輪の十種競技で入賞した日本人は・・・
いません。でも、五輪という大舞台でも海外の選手に圧倒されなかったことで「このまま自分の能力を高めていけば世界で対等に戦えるかもしれない!」と思えたのです。今季は世界ランク6位ですし、あと2年あればメダルが取れるくらいのところまで持っていけるのではと。


ボディビルダー顔負けの見事なピークの上腕二頭筋は真ん中でセパレートする


フィジークという競技は始まったばかりです。知名度をアップさせるためにスター選手の存在が必要という点では十種競技と同じかもしれません。
応援してくれる人を増やすことが大切だと思います。ロンドン五輪で8万人の観客の中、僕が棒高跳で4m90cmという記録に挑戦するためにひとりだけ残ったのですが、僕が煽ったわけではなく、観客のほうから「ウシロ!」と呼びながら手拍子が始まったんです。多くの観客にとっては国籍も違っただろうに・・・。その中で成功したときの歓声は、いまも忘れられません。4m90cmはみんながひとつになって出した記録だ!と思えたのです。

競技はひとりでやっていても強くなれません。指導者をはじめ多くの人の支えがあって、応援して下さる人が多くいる中で、いまの自分がいます。そしていま以上にたくさんの人に競技を知ってもらって、もっと多くの人に応援してもらいたいです。そのために小中学校に出向いて講演をしたり、ブログやツイッターを積極的に更新したりもしています。2年後のリオ五輪で「メダルを取る!」と宣言したとき、たくさんの人に「がんばれ!」と応援してもらいたいのです。

海外の選手と比べて、環境面であまり恵まれていないイメージがありますが。
そうですね、十種競技はメジャーではないので…。教員をやりながら出場している人もいますし、大学卒業後にアルバイトをしながら競技を続けている選手もいます。

競技を支援してくれる会社がなかなかない中、スズキは目標に向かって思いっきり支援してくれる会社なので感謝しています。僕は午前中だけ会社に出勤していますが、社員でいることによって、たくさんの同僚から応援してもらっていると自覚しています。だからこそ、スズキに入ってから日本記録を3回も更新できているのです。

 

右代流"競技で結果を残す心構え"


ジョイフルタイム西八王子・山崎代表(左)、そしてジム仲間と共に


トップアスリートとして、競技で結果を残すための心構えを伝授してくれませんか?
普段のトレーニングから「誰にも負けない!」と思うべきです。ひとつひとつの練習で全力を出し切ってトレーニングをして、試合はその成果を出す場所です。僕は「誰にも負けない、自分がいちばんだ」という気持ちで向かっています。そういう姿勢を持っていれば、試合のときに「いままで自分は正しいことをしつづけてきたんだ」という自信になって、それが力に変わります。もちろん冷静になる自分も必要ですよ。競技中にはどういった戦略で進めていくかも考えなければいけませんから。

競技をつづけていれば、辛いこともありますし、悩んだ時期もあります。3年前に日本記録を出したあと、記録が停滞しましたし・・・。去年は死ぬほど練習しました。その中で「競技だけをしていてはダメだ」ということに気づき、身体を効率良く動かすことについて考えるようになりました。それからは普段の練習での効果が変わりました。試合に出るのはコーチではなく自分なのだから、与えられたメニューを単にこなすだけでは成果は出ない、身体をちゃんと使いこなせるトレーニングをしなければいけない、と気づいて。それが去年の10月で、ジョイフルタイム西八王子の山崎さんにいろいろ相談に乗ってもらい、トライ体幹理論を学ぶようになったのです。それからはトレーニングスタイルがも身体つきも変わり、「これからはもう大丈夫だ」と実感しました。

記録が伸びずに苦しんだ3年間は一般的にはスランプといえるのかもしれませんが、僕はスランプという言葉は逃げ口上だと思っています。年齢とか怪我とかではなく、身体がいちばん動く時期にもかかわらず記録が停滞しているのは、知識が不足していることや、自分の身体を知る作業をしていないだけだと思うのです。日本記録を更新して、今季世界6位という位置につけたことはものすごい成長なのですが、記録を更新したことで、この3年間もネガティブなものではなかったと気づけたことも大きいです。




今までやって来たことを変えるのは勇気が要ったのではないですか?
そうですね。でも、それによって良い結果が出せたし、人間としても成長できたと思っています。陸上競技は記録として、数字として表れるスポーツなので、その数字が自信を持たせてくれたのです。今は身体の使い方をコントロールできるようになったので、10年後でも競技者としての能力を上げることは可能だと思っています。2020年の東京五輪のときには34歳になっていますが、年齢的にはいけます!

次の大会は?
9月30日〜10月1日に韓国で行なわれるアジア大会です。4年前のアジア大会では4位でメダルに届かず悔しい思いをしましたが、いまはアジアで1位に位置しているので、金メダルを獲るという目標を達成したいです。武井さんのおかげで十種競技の知名度が上がっているので、これからは僕が日本の十種競技を作って、再来年のリオ五輪でひと花咲かせたいです!
 
  • 右代 啓祐(うしろ・けいすけ)
    1986年7月24日生まれ
    北海道出身
    身長196cm、体重95kg
    陸上十種競技日本記録保持者(2014年日本選手権、8308点)
    スズキ浜松アスリートクラブ所属

  • <取材協力>
    フィットネスジム
    ジョイフルタイム西八王子
    JR中央線西八王子駅・徒歩4分
    TEL:042-665-0336

TEXT :
Akane
フィットネス&ボディメイク情報誌
[ PHYSIQUE MAGAZINE 002 ]

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