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テニス・プレーヤーのための筋力トレーニング

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[ 月刊ボディビルディング 1973年6月号 ]
掲載日:2017.10.18
早稲田大学教授 窪田 登

いつまで続く日本選手の体力不足

 去る4月22日朝の朝日新聞の報ずるところによると、デ杯テニス東洋ゾーン準決勝で、日本とオーストラリア戦の第1日目の結果は2ー0で日本の敗退であった。第1試合の坂井とアンダーソン、第2試合の神和住とニューカムのいずれにおいても第3セットまでは善戦しながら、第4セット目に6ー1でとどめをさされてしまったのだ。

 同紙は、38才のアンダーソンに対して25才の坂井が体力の面で大差をつけられていた、と断じている。ちょっと参考までにその内容を引用させてもらうことにする。

 「……中略。勝負のヤマの第2、第3セットでは、コートチェンジのたびに先に位置につくのはアンダーソンで、坂井はいかにもだるそうにのろのろと足を運ぶ。スタミナの差がはっきり出たのは最終セット。……中略。試合後、坂井は肩で大きく息をしながら”足が動かなかった。アンダーソンは38才とは思えない。こっちはクタクタ”という。……後略」

 この体力差のためか、残念ながら22日に行われたダブルスもオーストラリアにストレート負けを喫してしまった。それにしても、なんと日本の選手は体力的にふがいないのだろう。これはたんにテニスのみならず、その他のほとんどのスポーツ種目にも共通していえる問題だから、もう聞きあきたという人も多かろう。しかし、残念なことにいまなおこの現実は依然として続いているのだ。なんというさびしさだろう。日本選手の体力不足云々が叫ばれだしてすでに久しい。そろそろこのあたりでわが国のスポーツ界はこの体力コンプレックス症から脱してもよいのではないだろうか。

テニス選手のための体力トレーニング

 ご承知のように、トレーニング次第では体力不足を克服することが可能である。早い話が、その例は日本のレスリングやバレーボールの選手に求めることだってできる。したがって、テニスの選手でも十分にその可能性をもっているといっても過言ではあるまい。

 話はいささか古くなるが、その昔、全豪シングルス、ウインブルドン全英選手権シングルス、全米シングルスのタイトルを手中に収めたオーストラリアのフランク・セッジマンの場合を想い起こしてみよう。

 彼は15才のときからウェイト・トレーニングに熱中し、3年間のトレーニングでもって体重を16kgも増量させることに成功し、前記の輝かしい記録を残すことができた、といわれている。そういえば、筆者は彼の全盛時代にプッシュ・アップ(腕立て伏臥腕屈伸)を背中に20kgのバーベル・プレートを載せたまま実施している写真を見て感心したのを想い出す。

 彼はこの他、スクワットやベンチ・プレス、プルオーバー、フレンチ・プレスなどの運動を好んで行なったといわれている。

 こうして、ウェイト・トレーニングに魅せられたセッジマンは、やがてメルボルンにボディビルディングのジムをオープンして後輩の指導にあたることになったのだ。

 そういえば、彼の他にもリュイス・ボード、カッシュレイ・クーパー、ケン・マックグレーガー、ケン・ローズウォール、ニール・フレーザーといった著名選手たちも、みな多かれ少なかれウェイト・トレーニングの恩恵を蒙った人々である。

 いまから5年程前に筆者の元を訪ねてきたあるオーストラリア帰りのテニス・プレーヤー(日本人)も、メルボルンではテニスの補強トレーニングとしてずいぶんウェイト・トレーニングを課せられた、といっていた。これらからも察せられるように、ウェイト・トレーニングがテニス・プレーヤーに果す役割は想像以上に大きい、といってもいい過ぎではない。

 それでは、実際のトレーニングではどんな点に注意を払ったらよいのだろうか。もちろん、これには選手個人の身体的条件がからんでくるので、当然その重点の置きどころにも個人差があってよかろう。でも、概括的にとらえたときには、だいたい次のような点に留意すればよいのではないだろうか。

① 敏捷に動けるための脚力を強化する
② 上体、とくに腕(手首をも含めて)と肩を強化する。
③ 長時間プレーをしても疲れないように持久性を養成する。

 以上の3点を補強していくためにはウェイト・トレーニングとサーキット・トレーニング、それにインターバル・トレーニングが適当だと思う。もっとも、かくいう背景には、これらのトレーニング以上にたっぷりとテニスの練習を積んでいなくてはならぬということが大前提となるのはいうまでもない。

サーキット・トレーニングとウェイト・トレーニング

 そこで、いよいよ実際のトレーニングというわけだが、筆者は数あるアプローチの仕方の1つとして、たとえば次のような方法をおすすめしたい。

 すなわち、あらかじめ全身の筋肉を強化できるようなサーキット・トレーニング・コース(後述)を設けておいて、まずこれにしたがってトレーニングを実施する。そして、そのあとでさらにとくに強化したい部分の運動を重負荷(6〜12回繰返せる最大重量)をかけてトレーニングをするのだ。

 たとえば、脚力のためにフル・スクワットとかハーフ・スクワット、上腕三頭筋のためにフレンチ・プレスというように数種類の運動を充当するのである。もっとも、これは1種類の運動だけであってもいいことはいまさらいうまでもなかろう。

 かりに、サーキット・トレーニングだけででも十分に全身の筋力を高め得るようだったら、改めてこのようなウェイト・トレーニングを繰返して行うまでもない。だが、この場合にも、もし可能ならチェスト・ウェイト(ラット・マシーンと同じく壁面に、あるいは天井、または床に滑車を装置してこれにロープを通し、その一端に荷重した器具。通常、片手でロープをひっぱれるように、左右2本のロープにハンドルがついている)でテニスの打球フォームを10〜20回ずつ数セット繰返してみるのもよかろう。ロープに荷重するおもりは、10〜20回を正しいフォームで繰返せる範囲のやや最大に近いものを用いるのがよい。

 このように、専門スポーツのフォームにオーバーロードをかけた形で練習するやり方を専門的過負荷法といい、フォームが乱れるほど重い重量負荷をかけさえしなければ、打球力を高めるのに顕著な効果をあげてくれる。

 持久力をつけるためにはインターバル・トレーニングも実施することだ。たとえば、50〜200mくらいを最高スピードの80〜90%のスピードで走ったら、そのあと200mくらいをゆっくりとジョッグする。これを1セットとして、5セットくらいから開始して、次第にセット数を増やしていけばよかろう。呼吸が苦しくなり、脈拍数が高くなるというきついトレーニングだが、心肺機能を高めて、持久性を養成するのに効果をあげてくれるものだ。

 インターバル・トレーニングの代りに長距離走をやってもよかろう。だが同じインターバル・トレーニングであっても、あとに記するようにテニスの動きを生かしたトレーニング法もある。

サーキット・トレーニング・コースの1例

 それではここらで主題のサーキット・トレーニング・コースの1例を示してみる。

① ツイスティング・シット・アップ

 傾斜した腹筋台の上に仰臥して両手を首のうしろに置き、ひざを伸ばしたままか、あるいは曲げたまま上体を起こして右に捻り、右ひじを左ひざに触れさせて元の姿勢に戻る。次に上体を起こしたときには、左ひじを右ひざに触れさせる。この動作を交互に10回繰返す。腹の運動。(写真参照)
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② ツー・ハンズ・プレス

 バーベルを両手でもって胸の上(鎖骨の上)に保持し、両ひじをバーよりもいくぶん前に出し、腰背部殿部、大腿部の諸筋を緊張させてまっすぐ立つ。そのまま両ひじを頭上に伸ばしてバーベルを押しあげる動作を6回繰返す。バーベルの重量は男子15kg、女子10kg。肩と上腕伸筋の運動。

③ フル・スクワット

 バーベルを首のうしろで肩にかついで胸を張って立ち、ひざと腰を曲げて完全にしゃがみ込んでは立ちあがる動作を10回繰返す。バーベルの重量は男子25kg、女子15kg。両かかとの下に3~5cmの木片を敷いてハイ・ヒールして行うと動作し易い。脚の運動。

④ リスト・ローラー・エクササイズ

 リスト・ローラーを使って、おもりをバーまで巻きあげる動作を45秒〜1分間続ける。おもりの重量は男子7.5kg、女子4kg。握力と手首の運動。(写真参照)
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⑤ バック・イクステンション

 高い台の上に伏臥して上体を台の外に出し、足首を動かさないように固定したまま、上体を大きく上方に反らす動作を10回繰返す。筋力が増したら首のうしろで両手に適当なおもりをもって行う。背の運動。(写真参照)

⑥ レッグ・レイズ

 床上に仰臥して、両脚を揃えてまっすぐ伸ばしたまま、直角以上にもちあげる動作を12回繰返す。腹の運動。

⑦ プッシュ・アップ

 腕立て伏せを10回繰返す。女性の場合には両ひざをついて行なってもよい。ただし、いずれにしてもからだをまっすぐに棒のように保ったまま動作をすること。胸と上腕伸筋の運動。

⑧ M字型走、または前後走

 後述するインターバル・トレーニングで用いるM字型走、あるいは10mの間隔をおいて2本の平行線をひいておき、この間を前後走する。このランニングは全力疾走で行うが、後走するときも体を正面に向けておくこと。前後に走って(合計20m)1回と数え、これを3回繰返す。この回数はM字型走についても同様である。脚および全身の運動。

⑨ アップ・ライト・ローイング

 バーベルを肩幅より狭くオーバー・グリップで握り、腰の前からまっすぐ鎖骨の高さまでひきあげる動作を10回繰返す。両ひじは終始バーよりも高く保っておくこと。バーベルの重量は男子15kg、女子10kg。肩と上腕屈筋の運動。

⑩ ベント・アーム・プルオーバー

 ベンチに仰臥して首から上をベンチの外に出して首の力を抜き、両手でバーベルをもって頭の下から頭の上を越して胸までひきあげる動作を10回繰返す。動作は終始両ひじを曲げて、ひじを立てたまま行う。バーをもつ両手の間隔は肩幅よりも狭目の方がよい。バーベルの重量は男子12.5kg、女子7kgくらいがよかろう。上背と胸および上腕屈筋の運動。

このコースの使い方

 さて、上記コースの使い方だが、たとえ体力のある選手であっても、一応ここに記した使用重量と回数にしたがって1週間トレーニングしてみることだ。原則として週間のトレーニング回数は3回〜5回とする。正しいフォームでコースを3循環してみて、運動内容が楽過ぎるようだったらバーベルの重量を増やす一一筋力を増強させたい場合一一か、あるいは繰返し回数や運動時間を増やしていく一一筋持久力を高めたい場合一一ようにするとよかろう。

 このようにして、はっきりと使用重量および繰返し回数、そして運動時間が決定したら、2週目に入ったときにそのノルマにしたがってコースを3循環するのに要する時間を計ってみる。そして、その所要時間の70〜80%に相当する時間を目標時間に定め、以後はこの目標時間を目指してトレーニングをしていくというわけだ。

 くどいようだが、どの運動も動作を正確に、しかも自分のペースで行なっていくことが大切である。

 そのうち、首尾よく目標時間に到達したら、それぞれの運動の繰返し回数あるいは使用重量、運動時間などを適宜増やして、ふたたび所要時間を計りそれを元にして新たに目標時間を設定すればよい。

テニス向きのインターバル・トレーニング

 ところで、すでに紹介したテニスの動きを生かしたインターバル・トレーニングとはいかなるものをいうのだろうか。

 アメリカのデトロイト市にあるウェイン・ステートのテニス・コーチ、フランク・マルハウザーは、M字型走を使って選手のコンディショニングに成果をあげた、といっている。

 このM字型走とは、下図のようにコートの片面を使ってM字型に走る方法のことをいう。つまり、X点よりスタートして1、2、3、4に至り、ふたたびその逆を通ってX点まで戻るランニング法である。選手は走行中、常にからだを正面に向けたままでなくてはならない。つまり、1から2に移るときにもうしろ向きに走るのだ。そして1、3の点では必ずネットにラケットを触れさせるのだ。

 マルハウザーは、このM字型走を使って別表のようなインターバル・トレーニングを処方している。すなわち、第1週に例をとるならばM字型走を30秒間で行なったら、その直後に動的休息として30秒間、その場かけ足をやり、これを1回として、5回(反復回数)繰返す、というわけである。

 私はこのトレーニングを4週間ないし6週間前から、週に月、水、金の3回ずつ実施させた。そして、別表のように週が過ぎるにつれて内容に変化をもたせていった。

 このように、同じ走る運動を使うにしても、変化をもたせる意味でテニスの動きを応用したインターバル・トレーニングと交替させながら使うのも一法である。
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年間周期におけるトレーニングのあり方

 以上に3つのトレーニング方式について紹介したが、原則としてこれらのトレーニングは、テニスの練習を終えたあとで実施することが大切なことを強調しておきたい。

 オフ・シーズンにはサーキット・トレーニングとウェイト・トレーニングそしてインターバル・トレーニングをみっちりやるようにプランを立てることだ。そのかわり、テニスの方は基本的な動作を正確にやるように留意してどちらかといえば体力づくりの方に重点をおく方が好ましい。

 プレ・シーズンに入ったら、少しずつサーキット・トレーニングとウェイト・トレーニングの量や週間頻度を少なくする。

 シーズンに入ったら、インターバル・トレーニング(M字型走による)の方を活用するとよかろう。そして、サーキット・トレーニングかウェイト・トレーニングの方は週に1回ぐらいに限定して、オフ・シーズン中に高めた筋力水準を維持するように努めるのである。
今月のカバー・ビルダー

'73ミスター・サウス・パシフィック
ジョン・コジウラ

 17才のとき町の青少年スポーツ・センターでトレーニングを開始したジョンは、父親ゆずりのすばらしい骨格と猛烈なトレーニングにより、わずかの期間でコンテスト・ビルダー向きの体をつくりあげてしまった。

 彼が獲得したタイトルは、ミスター・サウス・オーストラリア、ミスター・アデレイド、ミスター・エリザベスなどだが、1年か2年以内にはNABBAユニバースに出場する希望をもってトレーニングに励んでいる。

 1人の息子と1人の娘を持ち、夜間警備員として働いている彼は、今後できるだけ多くのコンテストに出場し、フランク・ゼーンのようなタイプのビルダーになりたいと語っている。

 写真はミスター・サウス・パシフィック・コンテストの当日に撮影したものである。パートナーの女性は今年度のミス・エリザベス、レイリーン・ローレンス。(Photo By Wayne Gallasch)
[ 月刊ボディビルディング 1973年6月号 ]

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