やさしい科学百科㉞ "酒飲みの健康学" <その4>
月刊ボディビルディング1986年8月号
掲載日:2022.01.13
畠山 晴行
<11>ウイスキーの水割りと酔い
「ねえ、ボトルキープしない?その方が得よ。今なら原価」
そう言われて、あちこちの店にボトルキープする人がいる。原価とは言っても、それはあくまでも一般の酒屋さんでの小売販売価格である。仕入れ原価は当然それよりも安いのだから店として損はない。しかも、何日、何ヵ月か先に飲むまで前払いであるから、細かいことを言えば金利分の儲けもあるし、期限切れは丸儲け。
客側からみれば、ボトルキープは特別優待割引券を手に入れたような気分にさせてくれるし、"ボトル"の名前で通いつめれば、店の女の子もちゃんとおぼえていてくれる。で、客は王様のような気分になったり、まるで店の人が"お友達"という親しい関係みたいに感じてくる。通いつめの出費は予想外。
店にしてみれば、酒代前払いでボトルが切れるまでの間、テーブルチャージにツマミ代、氷、水ete、それだけで儲けの出るカラクリ。中には税務署行きの飲食税まで利益にしてしまう店もある。
大ミエを切って、無理をして大枚をはたき、他の客よりも高価な酒をキープするようなおめでたい人の中には、酒の味などより、優越感に酔って通いつめる人もいる。一度、高価なボトルをキープしたら、その次からランクを落すこともできないーー安いはずが、結局は酔いの世界の出来ごとであったーーということはよくある話である。
どういう訳か、ボトルキープが当り前。黙って座れば水割りセットが出てきて、飲むペースはお店まかせ、というケースが多いようである。となると「適量はウイスキーのダブル1杯。もう帰る」とはいかなくなる。
筆者などは、もっぱらビールであるから、ボトルキープとは無縁。もちろんウイスキーを飲めないという訳ではないが。
さて、ウイスキーとビールでは、果してどちらの方がアルコールの吸収がよいか?ということが、ある日、行きつけの店で話題になった。
正解はウイスキー。アルコール濃度の高いものの方が吸収率は高い。
ビール大びん1本(633ml)、ウイスキー1杯(65mlーー1ボトルでは750㎖)、清酒1級1合(180㎖)、焼酒25度(110㎖)は、いずれもアルコール量としてはほとんど同じ(22~23ml)であるから、濃いものから順番に並べると、ウイスキー、焼酒、清酒、ビールとなる。
ウイスキー(ストレート48mL)、ビール(500㎖)をそれぞれ30分かけて飲んだ場合、前者の吸収率は12.2%、後者では3.2%という実験結果が報告されている。およそ4倍である。
ウイスキーは同量飲んだとしても、ストレートよりは水割りの方が吸収率が低い。そして、うすい水割りほど吸収率が低くなるのだから、付き合い酒であまり酔いたくなければ、うすい水割りにしたほうがよい。
ボトルキープの水割りは、店の人のサービスのサジ加減で濃くもうすくもなる。あまり早く酔っぱらってしまっては困る。かといって、ボトルがなかなかカラにならなくては商売にならない。客の顔色をみながら、濃度をうまくコントロールしてサービスすれば、ミネラルウォーターや氷も売れて、店は万万歳。客も倖せ気分の酔い心地。
誰が考えたか、ボトルキープに水割りセット。これがなかったら、おそらくスナックなどはこんなに多く増えなかったろう。
そう言われて、あちこちの店にボトルキープする人がいる。原価とは言っても、それはあくまでも一般の酒屋さんでの小売販売価格である。仕入れ原価は当然それよりも安いのだから店として損はない。しかも、何日、何ヵ月か先に飲むまで前払いであるから、細かいことを言えば金利分の儲けもあるし、期限切れは丸儲け。
客側からみれば、ボトルキープは特別優待割引券を手に入れたような気分にさせてくれるし、"ボトル"の名前で通いつめれば、店の女の子もちゃんとおぼえていてくれる。で、客は王様のような気分になったり、まるで店の人が"お友達"という親しい関係みたいに感じてくる。通いつめの出費は予想外。
店にしてみれば、酒代前払いでボトルが切れるまでの間、テーブルチャージにツマミ代、氷、水ete、それだけで儲けの出るカラクリ。中には税務署行きの飲食税まで利益にしてしまう店もある。
大ミエを切って、無理をして大枚をはたき、他の客よりも高価な酒をキープするようなおめでたい人の中には、酒の味などより、優越感に酔って通いつめる人もいる。一度、高価なボトルをキープしたら、その次からランクを落すこともできないーー安いはずが、結局は酔いの世界の出来ごとであったーーということはよくある話である。
どういう訳か、ボトルキープが当り前。黙って座れば水割りセットが出てきて、飲むペースはお店まかせ、というケースが多いようである。となると「適量はウイスキーのダブル1杯。もう帰る」とはいかなくなる。
筆者などは、もっぱらビールであるから、ボトルキープとは無縁。もちろんウイスキーを飲めないという訳ではないが。
さて、ウイスキーとビールでは、果してどちらの方がアルコールの吸収がよいか?ということが、ある日、行きつけの店で話題になった。
正解はウイスキー。アルコール濃度の高いものの方が吸収率は高い。
ビール大びん1本(633ml)、ウイスキー1杯(65mlーー1ボトルでは750㎖)、清酒1級1合(180㎖)、焼酒25度(110㎖)は、いずれもアルコール量としてはほとんど同じ(22~23ml)であるから、濃いものから順番に並べると、ウイスキー、焼酒、清酒、ビールとなる。
ウイスキー(ストレート48mL)、ビール(500㎖)をそれぞれ30分かけて飲んだ場合、前者の吸収率は12.2%、後者では3.2%という実験結果が報告されている。およそ4倍である。
ウイスキーは同量飲んだとしても、ストレートよりは水割りの方が吸収率が低い。そして、うすい水割りほど吸収率が低くなるのだから、付き合い酒であまり酔いたくなければ、うすい水割りにしたほうがよい。
ボトルキープの水割りは、店の人のサービスのサジ加減で濃くもうすくもなる。あまり早く酔っぱらってしまっては困る。かといって、ボトルがなかなかカラにならなくては商売にならない。客の顔色をみながら、濃度をうまくコントロールしてサービスすれば、ミネラルウォーターや氷も売れて、店は万万歳。客も倖せ気分の酔い心地。
誰が考えたか、ボトルキープに水割りセット。これがなかったら、おそらくスナックなどはこんなに多く増えなかったろう。
<12>あなたはアル中か?
"アル中"とよく言われる。これは、アルコール中毒のことであるが、ちかごろではアルコール依存症という言葉を使うことが多い。
酒は飲んでも、アル中とは呼ばれたくない。これは誰しも一致した思いにちがいない。
さて、ではアルコール依存症、つまりアル中とはいったいどのようなものであろうか。
アルコールなしではいられない人、そして、アルコールのせいで時々問題をおこすような人は、まずアル中であると言ってよい。
国立久里浜病院が作成した自己診断法を別表に示す。合計点数がマイナスならばまず安心。0からプラスに数字が大きくなるほど問題である。2点以上でアルコール依存症の疑いが濃いということである。
ところで、アル中がなぜ起きるのかということについて、最近、体内での脂質代謝異常による、という考えがでてきている。
アルコールは、水にも油にも溶ける性質をもつもので、これが、例えば細胞膜などに影響を与える。細胞膜は表が水性、裏が油性の膜を、裏を内側にして2枚重ねたようなものである(細胞の外側と内側は、それぞれ表面が水性になっている)。
既刊に述べたとおり、栄養学でいう必須脂肪酸(リノール酸など)は、細胞膜を構築する築材となっており、またそれは、局所ホルモンであるプロスタグランジンの原料でもある。
ややこしいので詳細は記さないが、アルコールは、必須脂肪酸→プロスタグランジンの代謝に大きな影響をおよぼす。アルコールはプロスタグランジン(以下PGと略す)E1を増やす。酒を飲んだ時のよい気分は、PGE1によるものであるという説がある。躁病患者のPGE1も正常人と比べて高い。この2つは共通するものではないだろうか、という考えが示されている。
PGE1は、リノール酸を出発点としてつくられてゆくものであるが、アルコールはその第1段階(リノール酸→ガンマ・リノレイン酸)に関係する酵素の働きを抑制してしまう。
アルコールはPGE1を増やすが、一方ではリノール酸からの第一段階の変化を抑え込んでしまう。つまり、そのうちネタ切れ状態となってPGE1が不足してくるというのである。
抑うつ病患者はPGE1の値が低く、またアル中になりやすい。欧米では特に女性にこの傾向が強くみられる。
酒に溺れて、より多くのアルコールを求めるのは、PGE1の要求であると説明される。
ちなみに、以前「やせる」と大看板をかかげていた月見草オイル。飲んだだけでやせる訳はないけれども、アルコール依存をやわらげてくれることは考えられる。
しかしながらアル中の根本的治療は禁酒、あるいは大幅な減酒以外にありえない。
酒は飲んでも、アル中とは呼ばれたくない。これは誰しも一致した思いにちがいない。
さて、ではアルコール依存症、つまりアル中とはいったいどのようなものであろうか。
アルコールなしではいられない人、そして、アルコールのせいで時々問題をおこすような人は、まずアル中であると言ってよい。
国立久里浜病院が作成した自己診断法を別表に示す。合計点数がマイナスならばまず安心。0からプラスに数字が大きくなるほど問題である。2点以上でアルコール依存症の疑いが濃いということである。
ところで、アル中がなぜ起きるのかということについて、最近、体内での脂質代謝異常による、という考えがでてきている。
アルコールは、水にも油にも溶ける性質をもつもので、これが、例えば細胞膜などに影響を与える。細胞膜は表が水性、裏が油性の膜を、裏を内側にして2枚重ねたようなものである(細胞の外側と内側は、それぞれ表面が水性になっている)。
既刊に述べたとおり、栄養学でいう必須脂肪酸(リノール酸など)は、細胞膜を構築する築材となっており、またそれは、局所ホルモンであるプロスタグランジンの原料でもある。
ややこしいので詳細は記さないが、アルコールは、必須脂肪酸→プロスタグランジンの代謝に大きな影響をおよぼす。アルコールはプロスタグランジン(以下PGと略す)E1を増やす。酒を飲んだ時のよい気分は、PGE1によるものであるという説がある。躁病患者のPGE1も正常人と比べて高い。この2つは共通するものではないだろうか、という考えが示されている。
PGE1は、リノール酸を出発点としてつくられてゆくものであるが、アルコールはその第1段階(リノール酸→ガンマ・リノレイン酸)に関係する酵素の働きを抑制してしまう。
アルコールはPGE1を増やすが、一方ではリノール酸からの第一段階の変化を抑え込んでしまう。つまり、そのうちネタ切れ状態となってPGE1が不足してくるというのである。
抑うつ病患者はPGE1の値が低く、またアル中になりやすい。欧米では特に女性にこの傾向が強くみられる。
酒に溺れて、より多くのアルコールを求めるのは、PGE1の要求であると説明される。
ちなみに、以前「やせる」と大看板をかかげていた月見草オイル。飲んだだけでやせる訳はないけれども、アルコール依存をやわらげてくれることは考えられる。
しかしながらアル中の根本的治療は禁酒、あるいは大幅な減酒以外にありえない。
<別表>久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)
<13>肝臓注意信号
酒といえば「肝臓に悪い」ということが常識のように言われる。けれど、一切アルコール抜きの生活など、どだい無理な話なのである。調理に使われるみりんや酢(醸造酢)は、アルコールの供給源であり、パンの発酵過程で生じたアルコールも、大部分蒸発するとはいえ、すこしは残っている場合によっては1食で3gほど(ビール1/8本)となる。だから、よほどの病人でない限りグラス1杯程度のビールをとやかく言う必要もないだろう。
さて、アルコールによる肝臓障害といえば、まず脂肪肝である。これは、肝臓の細胞内に脂肪が異常に多い状態であり、以前はタンパク質やビタミンなどの不足によるものと考えられていた。今日では、脂肪肝はアルコールの直接作用とみられている。
アルコールはアセトアルデヒドを経て酢酸になる。これは活性化された酢酸(アセチルCoA)となってクレブス回路(クエン酸回路)に入る訳であるが、アルコール由来の酢酸が増えると脂肪酸の消費は少くなる(減量時に酒をひかえる理由はここにある)。
また、アルコールが多ければ、ブドウ糖からの分解産物であるピルビン酸からアセチルCoAへの変化(その後クレプス回路に入る)もブレーキがかかり、ピルビン酸は乳酸となり、血中の乳酸濃度が上昇する。
血糖値調節のカラクリのひとつとして、ピルビン酸→オキザロ酢酸を経て解糖系を逆もどりしてブドウ糖をつくるルートがあるが、これもアルコールの影響を受ける。その結果、アルコールの多飲は正常よりも低い血糖値をもたらすことになる(これもアル中症状を説明する理由となる)。
この他、アミノ酸利用の変化や、脂肪細胞から肝細胞への脂肪の動員が生ずることなどが重なって脂肪肝になるのではないかとみられている。
脂肪肝についでアルコールによる肝硬変が問題とされるが、これは最近では脂肪肝からなるという説が有力となっている。アルコールによる肝硬変はアルコール消費量の多い国ほど多い。アメリカでは肝硬変の8割近くがアルコール性であるが、日本では1割強。
適量の飲酒(1日ビール1本程度)であればよいとはいえ、食事からの摂取エネルギーが高ければ脂肪肝の道は近くなる。
適量飲酒に加えて食事のバランスも考えなければなるまい。
下記症状が出た場合は肝臓を疑ってみるべきだろう(必ずしも肝臓が悪いからとは限らないが)。
①だるい。歩くのも苦痛。
②酒量が低下、酒がまずくなった。
③食欲がない。
④下痢、吐き気、腹をこわしたような病状。
⑤頭痛、発熱、のどの痛みなど、かぜに似た症状が続く。
さて、アルコールによる肝臓障害といえば、まず脂肪肝である。これは、肝臓の細胞内に脂肪が異常に多い状態であり、以前はタンパク質やビタミンなどの不足によるものと考えられていた。今日では、脂肪肝はアルコールの直接作用とみられている。
アルコールはアセトアルデヒドを経て酢酸になる。これは活性化された酢酸(アセチルCoA)となってクレブス回路(クエン酸回路)に入る訳であるが、アルコール由来の酢酸が増えると脂肪酸の消費は少くなる(減量時に酒をひかえる理由はここにある)。
また、アルコールが多ければ、ブドウ糖からの分解産物であるピルビン酸からアセチルCoAへの変化(その後クレプス回路に入る)もブレーキがかかり、ピルビン酸は乳酸となり、血中の乳酸濃度が上昇する。
血糖値調節のカラクリのひとつとして、ピルビン酸→オキザロ酢酸を経て解糖系を逆もどりしてブドウ糖をつくるルートがあるが、これもアルコールの影響を受ける。その結果、アルコールの多飲は正常よりも低い血糖値をもたらすことになる(これもアル中症状を説明する理由となる)。
この他、アミノ酸利用の変化や、脂肪細胞から肝細胞への脂肪の動員が生ずることなどが重なって脂肪肝になるのではないかとみられている。
脂肪肝についでアルコールによる肝硬変が問題とされるが、これは最近では脂肪肝からなるという説が有力となっている。アルコールによる肝硬変はアルコール消費量の多い国ほど多い。アメリカでは肝硬変の8割近くがアルコール性であるが、日本では1割強。
適量の飲酒(1日ビール1本程度)であればよいとはいえ、食事からの摂取エネルギーが高ければ脂肪肝の道は近くなる。
適量飲酒に加えて食事のバランスも考えなければなるまい。
下記症状が出た場合は肝臓を疑ってみるべきだろう(必ずしも肝臓が悪いからとは限らないが)。
①だるい。歩くのも苦痛。
②酒量が低下、酒がまずくなった。
③食欲がない。
④下痢、吐き気、腹をこわしたような病状。
⑤頭痛、発熱、のどの痛みなど、かぜに似た症状が続く。
”ちゃんぽん・料理とお酒”
料理で"ちゃんぽん"といえば、その本場は長崎です。肉や野菜などいろいろな材料を煮込んだもので、栄養満点。
で、なぜそれがちゃんぽんという名前なのか調べてみると、中国の同じような料理を雑方(ツァファン)といい、それが日本に伝えられて訛ったものだそうです。
「ゆうべはお酒をちゃんぽんにしておかげで酔いが早かった」などとよく言いますが、お酒のちゃんぽんも「いろいろなものを」ということでその源は同じでしょう。
ところで「ちゃんぽん酒は早く酔う」というのはホントでしょうか?「種類のちがうお酒が、お腹の中で混って毒ができる」という話をしている人もおりますが、これは迷信です。
「目先が変わればつい手がのびる」という心理から、グイグイ飲んでしまう。結果的にアルコールが多くなるということは、よくあります。
本文にも書いてありますが、アルコール濃度によって吸収率が変ります。アルコール以外の成分によっても胃や腸の反応も変ってくるでしょう。このような変化と対応が、酔いを早くするという説もあります。
調子にのらず、ムリをせず、お酒は楽しく賢く飲みたいものです。
(美霜)
で、なぜそれがちゃんぽんという名前なのか調べてみると、中国の同じような料理を雑方(ツァファン)といい、それが日本に伝えられて訛ったものだそうです。
「ゆうべはお酒をちゃんぽんにしておかげで酔いが早かった」などとよく言いますが、お酒のちゃんぽんも「いろいろなものを」ということでその源は同じでしょう。
ところで「ちゃんぽん酒は早く酔う」というのはホントでしょうか?「種類のちがうお酒が、お腹の中で混って毒ができる」という話をしている人もおりますが、これは迷信です。
「目先が変わればつい手がのびる」という心理から、グイグイ飲んでしまう。結果的にアルコールが多くなるということは、よくあります。
本文にも書いてありますが、アルコール濃度によって吸収率が変ります。アルコール以外の成分によっても胃や腸の反応も変ってくるでしょう。このような変化と対応が、酔いを早くするという説もあります。
調子にのらず、ムリをせず、お酒は楽しく賢く飲みたいものです。
(美霜)
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