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食事と栄養の最新トピックス61
中・上級者のための食事法<7>
アミノ酸の種類と効果

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月刊ボディビルディング1986年4月号
掲載日:2021.11.15
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1. 高まるアミノ酸への関心

前号で「たんぱく質は20数種類のアミノ酸が百~千個連結したものだ」と述べた。天然には20種類のアミノ酸が存在するが、その中で8種類は人間の体内で合成できない。これらを「必須アミノ酸」と呼び、必須アミノ酸のバランスにより、たんぱく質の良否が判定されることを解説した。

ではアミノ酸とはどんな物質なのか本号で詳しく検討してみよう。化学記号が出るため、「わずらわしい」と思う読者がいるかもしれないが、実際にボディビルの中上級クラスの選手たちの間で「どのアミノ酸をとると筋肉の発達によいか?」と関心がひじょうに高まっている。

すでにアメリカ国内ではアミノ酸を単独に、あるいは複数を組合せて、カプセルにしたり、錠剤にした製品が出廻っている。だが本当に効果があるのだろうか?有害性はないだろうか?

アミノ酸の本質をよく理解しないと高い費用で無駄な出費をすることになる。ムダだけでなく、自分勝手に多量にとると、当然ながら副作用が心配になってくる。

アミノ酸への関心が高まるのに乗じて、単なるプロティンなのに全体がまるでアミノ酸粉末を集めた製品であるかのようにPRする会社も出ている。

宣伝文句をみると「当社のプロティンはイソロイシン9%、ロイシン5.4%、リジン5.2%……等、アミノ酸が集められています」と書かれている。

だが何のことはない。単に大豆たんぱくに含まれているアミノ酸の%が大部分である。決してわざわざアミノ酸粉末を多量に配合したわけではない。原料によるところが大部分で、添加したアミノ酸はごく少量にすぎない。

この業者が素人で無知なために、単なるアミノ離分析結果を宣伝しているのか、それともわざと強調してアミノ酸の固まりだと消費者を錯覚させようとしているのか、疑問である。この社の製品だけでなく、どのプロティンも「アミノ酸の固まりだ」とか「アミノ酸が主成分だ」と言えば言えないことはない。だがこれはフェアではない。

このような大豆や乳成分(カゼインなど)を主原料にした製品でなく、本当にアミノ酸粉末を集めた「粉末栄養剤」が存在する。これらは主に病院で消化器系統に障害のある患者に与えられる医薬品の一種である。価格も一般のプロティンよりずっと高い。粉末以外にチューブに入ったもの、注射で与えられるもの等がある。

健康な人々には不要なものなので、ビルダーがこれらに手を出すことはいっさい不要である。

2. アミノ酸の構造と化学的性質

アミノ酸と「酸」の字が付いているが、アミノ酸はアルカリ性のアミノ基(NH₂)と酸性のカルボキシル基(COOH)の両方を持っている。状況に応じてアルカリ性にも酸性にもなる両性電解質である。

水に溶かしたときのペーハー(PH)により次の種類に分けられる。(必須)とあるのは必須アミノ酸を示す。
記事画像1
わざわざ化学式を示したのは、アミノ酸にはN(チッ素)が必ず含まれること、また含硫アミノ酸にはS(イオウ)が含まれることを確認するためである。

また、アミノ酸とアミノ酸はNH₂のHとCOOHのOHがH₂Oとなって脱水し、残ったNH-COが結ばれることにより次々と連結し、大きな分子になることを示したかったのである。(CO-NHをペプチド結合と呼ぶ)

アミノ酸のうちプロリン、セリン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、グリシン、アラニン、スレオニンの順で水に溶けやすい。

また逆に、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、ロイシン、トリプトファン、シスチンは水に溶けにくい。

3. アミノ酸の製造法と味

それぞれのアミノ酸は自然界から結晶として得ることができる。昔は大豆や小麦、魚などの自然のたんぱく質を原料にして、加水分解物より、イオン交換樹脂を通して、分離精製するのが一般的であった。

現在でも合成法や酸酵法では困難なロイシン、フェニルアラニン、チロシン、シスチン、オキシプロリン、ヒスチジン、アルギニンなどは抽出法で得られている。

近年の化学技術の進歩により、石油からナフサを経て、グルタミン酸、グリシン、メチオニン、スレオニン等のアミノ酸合成に成功している。けれども消費者運動が高まり、石油から食品を得ることに抵抗を持つ人がふえ、現在は合成法にストップがかけられている。

味の素や旭化成、協和醗酵などのアミノ酸メーカーでは、もっぱら微生物による醗酵法が主流である。

特定の微生物を、糖、アンモニア、ビタミン、無機塩からなる培養タンクで増殖させると、菌体外にアミノ酸を蓄積することができる。グルタミン酸はこの方法で効率よく得られる。今ではヒスチジン、セリン、シスチンなどを除いて、ほぼすべてのアミノ酸が醗酵法により、比較的安価に生産されるようになった。フマール酸を原料としてフマラーゼを作用させ、アンモニアを付加すると、アスパラギン酸ができる。このように醗酵法(酵素法)と化学反応を連動させた方法がよりポピュラーである。

ではこれらのアミノ酸粉末の味はどうだろうか?

≪甘いアミノ酸グループ≫

グリシン、アラニン、スレオニン、プロリン、セレン、リジン塩酸塩

≪苦いアミノ酸グループ≫

フェニルアラニン、アルギニン、トリプトファン、イソロイシン、バリン、ロイシン、メチオニン、ヒスチジン

≪すっぱいアミノ酸グループ≫

ヒスチジン塩酸塩、グルタミン酸、アスパラギン酸

≪うま味のあるアミノ酸≫

グルタミン酸ソーダ、アスパラギン酸ソーダ


――アミノ酸を2つ連結した物質が少量で砂糖の60~200倍も甘さを呈することが判明し、「パルスイート」という商品名で味の素KKから発売されている。太りすぎを気にする人や糖尿病の人に好評のようである。

また、グルタミン酸ソーダが「調味料」として世界的に広く使われていることは周知の通りである。

「プロティンパウダーにもっとメチオニンを添加すれば、プロティンスコアが96から100にアップするので良いのでは?」という質問がある。だが、メチオニン粉末の味は独特のイオウ的な苦味があり、全体の風味を損ってしまう。この点に限界がある。

4. アミノ酸の栄養効果

必須アミノ酸のうち最も少ないものにより、たんぱく質としての役割が制限を受けることはすでに何回か述べたとおりである。(プロティンスコア)

したがって、小麦粉に不足しているリジンをパンや麺に加えることや、大豆たんぱくにメチオニンを加えることは世界各国でおこなわれている。特に食糧不足の低開発国向けの給食などにはアミノ酸を強化することが普通になっている。

日本でもリジン入りのパンが一時期流行したが「リジンは石油から合成しているのではないか?」「リジンを加えなくても日本の食生活のバランスはとれている。時代おくれでないか?」といった消費者からの疑問が強く、現在は学校給食にもあまり使われなくなった。

ちょっと専門的になるが、アミノ酸分子を光学的にみると、D型とL型の2種類がある。天然に存在するアミノ酸はL型で、L型でないと栄養効果がないと言われている。

石油合成法や醗酵法でアミノ酸を作るとD型とL型の混合品が出来やすいことが分っている。この中からD型を分離したり、L型をD型に変換するのに工程がふえる。

メチオニンのみはD型でもL型でも同じ効果を持つ。したがってメチオニンはアミノ酸の中でも安価なほうに属する。これに対してL型のリジンはやや高いアミノ酸なのである。

ところで、特定の1種類のアミノ酸だけが突出して多いと、体内でどうなるだろうか?

栄養学者の研究によると、アミノ酸を単独に多量摂取すると、他のアミノ酸の吸収と利用が妨げられる。これはアミノ酸の「インバランス」といわれる現象で、かえってマイナスである。

アミノ酸の量は他のアミノ酸と協調しうる適量でなければならない。

つまりプロティンスコア以上に何種類かのアミノ酸が多く存在しても、たんぱく質に合成されず、そのぶんはムダである。「たんぱく質の生合成」については重要な事項であり、述べる内容が多いため、次号に詳しく述べることにしたい。

なお、本シリーズの第1回(昭和60年10月号)に述べたが、必須アミノ酸ばかりが大切で、非必須アミノ酸が大切でないと考えることはまちがいである。非必須アミノ酸は糖や脂肪の分解物、あるいは他のアミノ酸とは相互転換により必要量が体内で合成される。大切なアミノ酸だからこそ、自家製造できるメカニズムを備えている。現に全体の必要なアミノ酸を100とすれば、必須アミノ酸は約3割にすぎない。残り7割が非必須アミノ酸である。この比率は筋肉のアミノ酸割合などとほぼ一致する。

したがって、特定の3~4種のアミノ酸カプセル(必須アミノ酸がメイン)をとったりすることは現在のところ不要と考えられる。

5. アミノ酸の医薬効果

「ある特定のアミノ酸を与えてもかえって害」と述べた直後に、アミノ酸の単独効果を書くことに疑問を持つ人がいるかもしれない。原則として胃腸や肝臓に障害があるために自分の体内での吸収や再合成ができない人を対象としているのである。

また、正規のルールを経て「医薬品」として発売もされている。健康な人が利用するには及ばない。参考程度にご覧いただきたい。<表1>
<表>アミノ酸の医薬効果

<表>アミノ酸の医薬効果

<表1>のアミノ酸は「医薬品要覧」から目についたものを選びだしたものである。いわば正式に医薬品として承認されている薬効であるが、このほかにトリプトファンがペラグラ(ニコチン酸アミド欠乏症)に効果を示したり、セリン、スレオニン、アスパラギン酸が皮ふに潤いを持たせるとして化粧品に配合される場合がある。

またヒスチジンが狭心症や動脈硬化症、末梢血行不全に効果があるともいわれているが、現行の医薬品便覧には見当らない。

アミノ酸輸液には、さまざまな配合がある。中には必須アミノ酸だけを集めたものもある。これらの栄養剤は病人向きであり、価格もひじょうに高くなっている。ビルダーがわざわざ買う必要はまったくない。

6. 食品添加物としてのアミノ酸

医薬品以外にアミノ酸が食品添加物として比較的安価に製造・販売されている。調味料としてのグルタミン酸やグリシンは多くの加工食品に相当の濃度で使われる。

グルタミン酸ソーダはカマボコなどの水産加工品、佃煮、みそ、即席カレー、ふりかけ、ラーメン用スープ、たくわん、ぎょうざ、しゅうまい、クラッカー、マヨネーズ等々、あげればキリがないほどである。

グリシンはビールやウイスキー、ぶどう酒、さきいか、粉末スープ、水産ねり製品に「うま味」「こく」を与えるために相当量が使われている。

栄養強化剤としてアスパラギン酸、アラニン、フェニールアラニン、アルギニン、イソロイシン、グリシン、システィン、スレオニン、チアニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、メチオニン、リジン等を食品に使用することが認められている。

これらは栄養強化という名目のほかに「うま味」を与えたり、ヒスチジンのように化学膨張剤として使ったり、アラニンのように酸化防止剤としての効果があるもの、スレオニンのようにチョコレートの香りを与えたり、イソロイシンのようにチーズの香りを与えたり、用途はさまざまである。

味の素、協和醗酵、旭化成などのアミノ酸メーカーの生産する相当量が、この食品添加物にまわされている。

これらのアミノ酸は当然ながら安全性を前提にして生産されているが、自分勝手に無制限に使っていいものではない。個々のアミノ酸の毒性について、郡司篤孝著「食品添加物読本」等をごらんいただきたい。動物実験の結果がくわしく述べられており、決して粉末製品を毎日のように一定量ずつ飲む方法はとらないことである。

冒頭に述べたように、ビルダーが人から人への聞き伝えで、単独のアミノ酸粉末、あるいは何種類かを混合したカプセルや錠剤を使うことに興味と関心を持ちだしている。実際に使用しているビルダーもいる。その多くはアメリカからの輸入品であったり、薬局で売っている薬品であったり、食品工場に納入されている食品添加物であったりする。

だが良く考えてほしい。これらの連用で大きな障害が現われたとき、メーカーや販売会社は責任をとってくれるだろうか?答えはノーである。勝手に使用目的や基準使用量を超えて使ったのだから責任は自分自身にしかないのである。

障害は現時点では現われなくても、長期にわたって使用した結果、将来のいつか、急に障害が出てくるかもしれない。実際に起こった今までの例はたいがい後になってわかってくる。スモン病、イタイイタイ病、水俣病など、公害病と同じである。警告を無にしないで、無茶なことはやめよう。
月刊ボディビルディング1986年4月号

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