フィジーク・オンライン
  • トップ
  • スペシャリスト
  • 食事と栄養の最新トピックス(62) 中・上級者のための食事法〈8〉 話題のアミノ酸剤とは?

食事と栄養の最新トピックス(62)
中・上級者のための食事法〈8〉
話題のアミノ酸剤とは?

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1986年5月号
掲載日:2021.11.24
ヘルスインストラクター 野沢 秀雄

1.いまUSAで流行していること

 新しい雑誌「ターザン」は現代人の健康と体力づくりを提案し、たいへん話題になっている。この雑誌の編集スタッフの西村さんや大橋さんが代々木のトレーニングプラザにも何回か足を運び、新雑誌の内容について語りあっている。

 本年2月にアメリカの西海岸を歩いていた西村さんは、「アメリカでもっともナウい現象」として次のような点をあげている。

(1)とにかくトレーニング・ジムはどこも大盛況。まるで銭湯のよう。順番を待つ人が入口で列をつくって待っているほど。男女ともにブームである。(早く日本もこう なってほしいもの)

(2)スネーク柄のスポーツウエア、Tシャツ、レオタード、スニーカー、ブレーカーなど「へび」がとぐろを巻いたデザインが大流行している。

(3)Reebokブランドのシューズ

(4)天然100%のジュースバー

(5)フレーバー入のミネラルウオーター

(6)スムージーという飲み物。プロティンをベースに精力がつく成分が多い。

(7)フルーツでつくったアイスクリーム

(8)日本食、とくにスシバー。ネタを日本語で注文するのがナウい。客の85~90%がアメリカ人。
逆に肉を食べることが急に減って、消費量が大幅に落ちている。

(9)ひところのメガビタミンの流行がすたれて、代わりにアミノ酸剤が並んでいる。一般人も割合に利用しているようである。

2.アミノ酸剤の配合例

 アミノ酸剤の種類について先月号で総論を述べた。最近のバイオテクノロジーの進歩により、比較的安く生産できるようになっている。

 アメリカで売られているアミノ酸剤は次の3つに大別できる。
記事画像1
 ――このほかに「23種のアミノ酸を集めた錠剤」「アミノ酸と花粉・カゼイン・大豆たんぱくを配合したもの」など種類はひじょうに多い。

 1ドルを約200円とみて計算するとそれほど高くない。(日本へ逆輸入されると急に高くなることがある)

 オルニチンについては今まで説明がなかったアミノ酸だが、アミノ酸が体内で処理される過程で、アルギニンから尿素がはずれてできる物質である。

 代謝がスムーズであれば「オルニチンサイクル」と呼ばれる反応により、シトルリン→リン酸の関与で、炭酸ガスとアンモニアいまで分解されていく。また、時にはオルニチンから脱炭酸により、腐敗性毒物の一級アミンに変ることがある。

 宣伝文句では「アルギニン・オルニチンは成長ホルモンを活発化し、筋肉の発達を促し、体脂肪を燃焼させる」と、うたいあげている。またフェニルアラニンは成長ホルモンに関与するほか、トレーニングのハードワークによる痛みを柔らげると広告している。さらにアスパラギン酸は尿酸ができるのを押さえるので長時間バテずにトレーニングできると述べられている。

 このほかリジンが持久力向上のシステムに効果が期待されるとか、トリプトファンが成長ホルモン系に作用しアルギニンとオルニチンの結合力を高めるとか、効能効果を読むと、ビルダーならずとも関心がわきおこる。

3.アミノ酸剤に対する疑問

 だが、このような形でアミノ酸をとることが正常なのだろうか?

 アミノ酸剤の宣伝文句のような効果が本当にあるのだろうか?もし本当だとしても日本で発売が許可されるものだろうか?

 この疑問点を参考までに味の素株式会社の専門家に問合せてみた。「日本に逆輸入されると高くなる」と、述べたように、アメリカで売られているアミノ酸剤の多くは日本から輸出されたものである。中でも味の素株式会社の比重は大きい。

 そして、その回答は次のように極めて良識的なものであった。

〈1〉原料のアミノ酸は栄養学上の見地から販売しているので、アメリカのアミノ酸剤のうように薬効をうたって売っているのではない。USAのディーラーが独自におこなっているにすぎない。

〈2〉アミノ酸が効果をあげるのは、不足している必須アミノ酸をカバーするような場合である。大豆たんぱくにメチオニンを加えたり、小麦粉にリジンを加えるような使い方は望ましいと考えている。

〈3〉特定のアミノ酸だけを多くとることは、全体のアミノ酸の吸収を悪くする(インバランス)。これは決して良い方法とは考えられない。

〈4〉味の素では「アルギンZ」という栄養ドリンク剤を発売しているが、これとてアルギニンを多くとることを目的としているわけではない。全体のバランスを崩すほど多量に使われてはいない。

〈5〉アメリカのアミノ酸ブームは去年でピークを過ぎた。注文は大幅に減っている。それというのはアメリカのFDA(食品薬品取締局)から、「アミノ酸の効果は業者が過大に述べている。本当に効果があるのは、栄養的にみて不足しているときだけである。一般人がアミノ酸をとってもムダだ」と、かなり強い警告が出された。このためにブームはすでに峠をこし、冷えつつある。

4.アメリカと日本のちがい

 この話を聞いて思い当たることがいくつかある。

 第一は日本の場合、薬事法の規制がきびしいことである。薬でないのに健康食品やスポーツフーズ、ダイエット食品、栄養補助食品(サプリメントフーズ)を売るときに(○○に効く」「○○の効果が大きい」「体力がつく」「やせる」などの宣伝文句は使用してはならない。

 もし本当に効果があるのなら、薬品であり「薬品として許可を受けて売りなさい」というわけだ。これには何千万円、何億円もする実験データを揃えねばならず、多くの業者はあきらめざるを得ない。

 実際には栄養学上の見地から、たんぱく質・脂肪・糖質・ビタミン・カルシウムなど、不足している栄養素を補う目的で、栄養補助食品は存在してもよいと思う。薬効でなく、食効を持つ食品もあると思う。ただし宣伝文句の表現だけは過剰になってはならない。業界でも認知のための努力中である。

 また日本では錠剤になったものや、カプセルに入ったものは「薬品」とみなされる。健康食品として売られているビタミンCやカルシウムなどが小粒で小さすぎたり、キャンデーのように平たく大きいのは錠剤らしさを逃れるためである。

 さらにジャームオイルがカプセルに入って「食品」として売られているがこれは例外的である。ローヤルゼリーとニンニク粒の3品のみは「カプセル入りにしないと品質劣化が大きい」とメーカーが申し入れて厚生省に黙認されているのが実状だ。しかもジャームオイルの場合、レーベルや外箱をよく見ると「調理・調味用」という活字が小さく入っているはずである。

 つまり「薬品のように見えるが、あくまでも食品ですよ」とことわっているのである。あくまでも建て前は「薬品ではない」のである。

 また日本の場合「○○書では」「○○博士の談によると……」などという表現も禁じられている。
 おまけに「服用法は朝・夕に3粒ずつ」というように、具体的な飲み方を示すことも許されていない。

 つまり、薬事法の規制が強いのである。私の友人で「アメリカに注文して相当多くのプロティンタブレットを神戸港に送ってもらったが、許可がおりない。高い費用をかけたので何とか役人に頼んでほしい」と依頼してきた人がある。私はその以前にミネラル剤やアミノ酸のサンプルを1ダースくらい注文したことがあるが、港で荷上げを許されず、何度も厚生省に足を運んだがどうしても許可が下りず、「廃棄処分やむなし」と、焼却された経験がある。この人の場合も結局あきらめて大損したようだ。

 日本へ輸入をもくろむ業者の中に、厚い壁に妨げられて断念した人は数多い。「貿易収支が黒字というが、形態や添加物にうるさいクレームをつけすぎる」という批判があるが、その通りと思う点も多い。

 その一方で、アメリカは規制が甘すぎて、危険な物質が入りこむ心配が存在する。たとえばアミノ酸やマルチビタミン剤、ミネラル剤、それにステロイド類である。

 今のところは個人的な旅行の際に、スーツケースに入れて運ばれてくる程度であるが、薬事法の規制が弱まれば本格的に輸入を考える業者は多い。

5.アミノ酸ブームは終った

 このように日本では「内容」「形態」「広告表現」「飲み方」などについて、薬品と食品の区別がきびしい。

 単にそれだけではない。薬品として認可されたものでさえ、毎年「薬としての効果が本当にあるか?」という評価が順ぐりにおこなわれている。

 医師たちが使っている薬の中にも、「まるで効能書きどおりでない」というものが出てくる。その結果1年間で20品目~30品目も「薬としての資格なし」と取り消されるものが出ている。

 アミノ酸関連で記憶に新しいものを2~3あげてみよう。

■田辺製薬のアスパラC

「疲れにアスパラ」と派手にTV宣伝されていたが、現在はアスパラギン酸の効能より、ビタミンEなどの入ったドリンク剤として売られている。この点、味の素のアルギンZと似て、イメージとして利用されている要素が大きい。

■小野薬品のオロトン酸

 オルニチンを主成分としたアミノ酸剤で、ボディビルダーをモデルに大きな新聞広告をしていた。評価見直しの結果、「効果なし」とされたのか、消えてから久しい。

■その他のアミノ酸剤

 前号に述べたものが、強肝剤や経口アミノ酸剤として残っているくらいで、以前には各種アミノ酸が単体で薬として売られていたようだが今はなくなっている。

 一時的に騒がれても、本当の効果が無ければやがて消えてしまう。今日のアメリカのブームは「ステロイドの代わりに同様の作用をする」として売られていることに問題がある。

 成長ホルモン剤をステロイド検査をのがれるために使うスポーツ選手やビルダーがふえている。成長ホルモン剤の検出法が発表されると、今度はオルニチンやアルギニンが成長ホルモン分秘剤として脚光をあびてくる。
 つまり単なる追いかけっこ、あるいはスリルあるゲームみたいだ。

 FDAが無効を警告し、とりすぎの危険を指摘している今、わざわざ日本のビルダーが高い費用を出して使うものではない。

 最新のアメリカのボディビル誌をみると、「アミノ酸剤ディスカウント」の広告が目につく。30%引が通例になっているほど。つまり買う人がなくなっていることを示している。このことからも「アメリカのアミノ酸ブームも終りになっている」という印象を受ける。一部は残るだろうが、今までほどの評価は受けないと思われる。

6.今月のまとめ

 医薬品のような効能・効果をあげて健康食品を売ることは許されていず、また使う側も「医師の処方なしに同等の効果をあげる成分を用いることは危険が大きい」と認識しよう。アミノ酸を単独でとることは「医薬品」をとることと同じとみなされる。ステロイドほど危険ではないが、果たして本当に効果があるのかどうか、もしあれば食品でなくなり、用い方を慎重にしなければならない。
月刊ボディビルディング1986年5月号

Recommend