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亜鉛とその作用②

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掲載日:2020.09.10
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免疫反応における情報伝達物質となる

理化学研究所と大阪大学の共同研究により、亜鉛が免疫反応における情報伝達を担っていることが発見されました。(※41)

獲得免疫においては、ウイルスに感染した細胞を抗原提示細胞が取り込み、細胞内でペプチドに分解します。そしてまたウイルスが来たときに、ペプチドを細胞表面まで持って行き、「提示」します。これをT細胞がやっつけるわけです。抗原提示細胞の代表が樹状細胞(DC)です。この研究ではDCが成熟(ペプチドを細胞表面に持って行く)する過程で、細胞内の亜鉛濃度が低下していることが示されました。つまり亜鉛が細胞内シグナル因子として、樹状細胞の成熟に関与しているということです。

また亜鉛が不足するとT細胞が減少し、免疫が低下します。(※42)さらに亜鉛の摂取によってヘルペスやアフタの改善が認められており(※43,※44)、また欧米では風邪の治療に昔から亜鉛が使われていて、一日に80~207mgの亜鉛を摂取したところ、完治までの期間が半分近く短くなっています。(※45,※46)この場合、一日に75mg以下では効果がないようです。

テストステロンが増える?

亜鉛のサプリメントといえば「ZMA」が有名です。最初にこれを出したメーカーの主張では「テストステロンを増やす」とのことでした(※47)が、実際にはそれほどの効果はなかったようです。
42名のトレーニング経験者を用いた研究では、8週間に渡って指定量のZMAを摂取してもホルモンレベルや体組成、筋力、持久力などに違いは現れませんでした。(※48)

14名のエクササイズ経験者に一日11.9~23.2mgの亜鉛を摂取させた研究でも、テストステロンレベルは変化していません。(※49)

ただしもっと大量の亜鉛を摂取することで、テストステロンがアップしたという報告も出てきています。体重1kgあたり3mgの硫化亜鉛を4週間に渡って10名のレスラーに摂取させたところ、総テストステロンと遊離テストステロンレベルが顕著に高くなりました。(※50)

体重1kgあたり3mgというと、かなり大量のように思われますが、これについては後述します。また普段運動しない人は、運動することによってテストステロンレベルが低下しますが、やはり4週間に渡って体重1kgあたり3mgの硫化亜鉛を摂取すると通常時からテストステロンレベルを高めることができ、運動してもテストステロンレベルはそれほど低下しませんでした。(※51)
※41:Toll-like receptor-mediated regulation of zinc homeostasis influences dendritic cell function. Nat Immunol. 2006 Sep; 7( 9): 971-7. Epub 2006 Aug 6.

※42: Zinc for the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Feb 16;( 2): CD 001364. doi: 10. 1002/ 14651858. CD 001364. pub 3.

※43: Zinc sulfate supplementation for treatment of recurring oral ulcers.South Med J. 1977 May; 70( 5): 559-61.

※44: A randomized clinical trial on the treatment of oral herpes with topical zinc oxide/ glycine.
Altern Ther Health Med. 2001 May-Jun; 7( 3): 49-56.

※45: Zinc lozenges may shorten the duration of colds: a systematic review.
Open Respir Med J. 2011; 5: 51-8. doi: 10. 2174/ 1874306401105010051. Epub 2011 Jun 23.

※46: The effectiveness of high dose zinc acetate lozenges on various common cold symptoms: a meta-analysis.
BMC Fam Pract. 2015 Feb 25; 16: 24. doi: 10. 1186/ s 12875-015-0237-6.

※47: Effects of a Novel Zinc-Magnesium Formulation on Hormones and Strength Journal of Exercise Physiology Online. 3 (4): 26– 36.

※48: Effects of Zinc Magnesium Aspartate (ZMA) Supplementation on Training Adaptations and Markers of Anabolism and Catabolism
J Int Soc Sports Nutr. 2004; 1( 2): 12– 20.

※49: Serum testosterone and urinary excretion of steroid hormone metabolites after administration of a high-dose zinc supplement.
Eur J Clin Nutr. 2009 Jan; 63( 1): 65-70. Epub 2007 Sep 19.

※50: The effect of exhaustion exercise on thyroid hormones and testosterone levels of elite athletes receiving oral zinc.
Neuro Endocrinol Lett. 2006 Feb-Apr; 27( 1-2): 247-52.

※51: Effect of fatiguing bicycle exercise on thyroid hormone and testosterone levels in sedentary males supplemented with oral zinc.
Neuro Endocrinol Lett. 2007 Oct; 28( 5): 681-5.
  • 山本 義徳(やまもと よしのり)
    1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
    ◆著書
    ・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
    ・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
    ・サプリメント百科事典(辰巳出版)
    ・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
    など30冊以上

    ◆指導実績
    ・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
    ・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
    ・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
    ・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
    ・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
    その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。

  • アスリートのための最新栄養学(上)
    2017年9月9日初発行
    著者:山本 義徳


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