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【屈強インタビュー】#31 ”チャンスは見えないだけでどこにでもある”上原健

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掲載日:2025.05.28
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バルクと丸みが両立された肉体を誇り2023年全日本ジュニア70kg超級10位、香川県ボディビル4位などの実績を携え仕上がり80㎏&ジュニア優勝を目指す一方で、新卒で入社した会社を早期離職した経験を持つ香川県の雄・上原健選手。逆境ともいえる環境の中、さらなる高みを目指すためにどのような取り組みをしているか話を伺った。

普段の生活や仕事に関して

先日、新卒で入社した会社を早期退職してから現状何もやっておらず、とりあえず学生時代のバイトの貯金で生活しています。
Youtubeにアップした「会社辞めた」動画でチャンネル登録者数が500人くらい一気に増えたので、そのおかげでYoutubeの収益化条件に達して収益化できるようになりました。といっても本当につい最近なのでごく僅かなのですが。

三ヶ月後の日本ジュニアに向けて準備を進めていますが、退職の件は減量やトレーニングに影響はありません。それよりはそもそも以前から仕上がりに課題があるので今回は10ヶ月かけて減量を行っています。
長期間の減量の目的は脂肪を落としてよりハードに絞るというよりはなるべく筋量を残す狙いからです。自分は筋肉の丸みが長所だと思っているのでその長所を消さないようにしたい。いつも筋に張りがなくなってしまうので萎まないようにゆっくりと時間をかけて良い状態に持っていこうと思っています。

自分で言うのもなんですが、日本ジュニアでは自分の筋量でも通用すると感じました。県の選手権でも筋量的には決して悪くないと思ったのですが、ファーストコールに呼ばれても優勝争いには絡めませんでした。
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筋肉が丸い選手に共通していること

日頃のトレーニングでは筋量を増やしていくことはもちろん、それと合わせて筋の丸みを作ることも意識してます。大会初出場のとき、他の選手と比べて自分の筋の形はかなり角ばっていてブロッキーだなと感じて、そこから筋の丸みを出すためにどうすれば良いかを考えてトレーニングを変えていきました。

以前はスティッキングポイントやストレッチがかかるポジションで一旦動きを止めて区切った動作を行っていたり、可動域を狭くしないと上がらない重量を扱っていたのでそれらをやめました。動作を止めずにテンポよく動かすようにしてから丸みを帯びた感じがあります。

このやり方は特別に勉強したというわけではなく、海外選手のトレーニング動画を見ていて気付きました。フィルヒース、ケビンレブロー二、フレックスウィラーとか特に黒人選手の筋肉は丸い。それらの選手は動作のテンポが速く、一定の速さと可動域を保ったままやっていてあまり追い込まない。回数を重ねて一定のテンポや可動域が保てなくなったらもう置いてしまっている。

動画だと海外選手は極端に追い込みすぎずある程度の余力を残した状態で終えているようにも見えますが、自分はそれよりは多少追い込んだ状態までもっていってから終えるようにしています。いずれにせよ完全に限界までというよりはテンポと可動域が保てなくなったら置く感じです。そうした筋肉が丸い選手に共通していることを参考にして取り組んだ結果、筋肉が丸くなってきました。
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トレーニングはオリジナルではなく誰かの模倣をしている

学生の頃に図書館で栄養の勉強はしてましたが、トレーニングや基本的な解剖学の知識は独学で学びました。トレーニングを学ぶには選手を見た方が良い気がして。

「この選手のこの部位が強くて得意なのは才能だ」みたいな考え方もありますが、得意部位が得意部位である所以は才能云々ではなく単純に動作が上手いからで、その部位の発達に適した動きが自然にできているからだと自分は思っています。

自分のトレーニングはオリジナルではなく、だいたい誰かの真似です。この選手がこう言っているからそれを真似しようという意味ではなく、その人が意図せずにやっているトレーニング中の動きを汲み取って真似をしています。種目ごとに特徴を真似するというよりは体の動かし方や使い方を真似る感じです。腕ならフィルヒース、胸ならグンターシュリアカンプなど。

背中はこだわりがあって、背中が強い選手が好きでドリアンイエーツや鈴木雅選手など複数名を参考にしています。他にも背中が強い選手はたくさんいますが、可動域を制限したトレーニングは自分には難しすぎて真似できそうにない感じがあるので可動域を広くとる選手を参考にすることが多いです。脚は正直あまり考えていなくて。特に何か運動をしていたわけではありませんが元々ある程度の太さがあって、脚は普通にやってます。
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アイソレーション種目でコンパウンドの質を上げる

種目順としては海外ビルダー的なやり方をやることが多いです。日本の選手はスクワットなど重量を扱えるコンパウンド種目から入ることが多いように思いますが、海外選手はレッグエクステンション等のアイソレーション種目から入ことが多い。例えば他にも腕の場合だと、日本の選手はバーベルカール系から入ることが多いのに対して海外選手はマシンのカールからやったりですとか。

海外選手が最初にアイソレーション種目を持ってくるのは予備疲労法を狙ったものだという考察もありますが、個人的には違うと思っていて。最初にコンパウンド種目を持ってくると重量が扱える反面、負荷が抜けやすい局面が多くなってきます。例えばスクワットだとレップ間で立っているときとか。

この点は先に述べたこととも重なってくるのですが、動作の中で負荷が抜ける局面があると角ばったブロッキーな筋肉になりやすく、動作中に負荷が抜けないと丸くなるように思ってます。そのため負荷が抜けにくい状態を作っておくことで丸い筋肉を形作ることが狙いの一つにあるのではないかと考えてます。

それでも自分としてはコンパウンド種目の優先順位は高いです。最初にアイソレーション種目を入れることがあっても、それはコンパウンド種目の質を上げるためのものとして考えています。胸や背はコンパウンド種目から入って、腕や脚はアイソレーションから入ることが多いです。

昔、スクワットで膝を怪我したことがあります。今はスクワットは最後の方に持ってきているのですが、一種目目にやっていた時期です。8レップできたら重さを上げるようにしていて、195㎏で7レップできて200㎏が近いなと思った矢先、膝を痛めてしまいました。フォーム等の問題ではなく体の耐久性がついて行きませんでした。しばらくは自重のスクワットでも痛かったほどです。
それからリハビリを兼ねて仕方なくレッグエクステンション等のアイソレーション種目を先に入れるようにしたら怪我が治った後も感覚が良くて他の部位にも取り入れるようになりました。それから時間が経って今は膝は問題なく動けています。

POFをバランスよく行うこと

種目を考える上ではPOFの考え方でバランスよく刺激を入れることを意識しています。ストレッチ種目は筋肉の末端に負荷がかかって、収縮種目は筋腹に負荷がかかる。その上でもちろんミッドレンジも入れていかないと偏りが出る。
ストレッチ系種目は筋が丸みを帯びると言われていますが、細かい点ですが個人的には丸くなるよりは膨らむような印象があります。ストレッチ系種目ばかりを優先して取り組む選手は丸くデカくなるのですがカットが出にくい印象があり、収縮種目も取り入れた方が良いのではないかと思う事もあります。なのでやはりストレッチ系種目だけでなく収縮種目もミッドレンジ種目もバランスよく取り入れる必要があるように感じます。

香川県は選手が少ないので他の選手の考え方や影響を受けにくく、自分の考えを落ち着いて試しやすい環境でもあると思います。性格的に他の人に言われたことをやることが嫌いで、今でも自分のトレーニングの根本の部分はSNSを始める前に自身で考えていた部分にあります。
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日頃のトレーニングメニュー

5分割でなるべく一日一部位になるようにしてます。

・脚
・胸と腹筋
・背
・肩とカーフ
・腕

一部位あたり6種目ほどで各5セットずつくらいで、特に珍しい種目はやらずに基本的な種目をやっています。トレーニングを始めた初期からこの流れだったわけではなくけっこういろいろ変わってます。4分割にして改善点の大胸筋を週二回やっていたときもありましたがあまり変わりませんでした。当時はあまりトレーニングが上手くなく、テクニックの概念がなかったので頻度や重量でカバーしていたのですがあまり成果を感じなかったのでこれは違うなと。そこから変えていきました。

基本的には重量を追うようにしてます。効かせるとか動作の質を上げるのは前提の話で、その上で重量を扱っていく。その前提が難しいので苦労するところなのですが。伸びない人は効いた感で満足してしまうことが多くて、そこからなるべく重量を伸ばしていくことが大事だと思っています。

トレーニングの質を上げるために

基本的には早寝早起きを心がけています。さほど長くない社会人生活時代では仕事を終えたらジムに行き、帰宅したらすぐにやることをやって余計なことをしないですぐ寝るようにしてました。

トレーニングに関して言えば自分は最初の一種目目の1セット目から最終種目の最終セットまでがトレーニングだと捉えています。以前はとにかく追い込もうとしてフォームを崩したりレストポーズ法を入れたりしていましたが、神経疲労が起こるので後半に行くほどトレーニングの質が下がってしまいます。
先の話とも繋がるのですが、一定の可動域やテンポが保てなくなったら止めておくのは筋の発達や形を作る狙い意外にも最後まで質の高いトレーニングをやることにも繋がると考えています。

あとは動作中に動作以外の事を考えないようにしてます。脳の疲労と体の疲労は区別がつきにくいのでややこしいところですが、「ここで止める」とか「この軌道で」みたいなことを考えながらやると頭が疲れてしまいます。他のスポーツでも反復練習は非常に大事な要素です。セットに入る前に今から行う動作をイメージしておいて、セットが終わるまで集中してなるべく余計なことを考えずに反復動作を行う。いつでも同じ動きを再現できるのが理想です。

トレーニングをするほど体が硬くなるのを感じていて、少し怪我が増えてきてしまったので最近ストレッチをやり始めました。僧帽筋などの肩甲骨周りに問題があるからか、肩から肘まで続く痛みがあって背中をやった後は特に入念にやるようにしています。
使うのはストレッチポールくらいで、トレーニング後に行うことが多いです。トレーニングの前でもいいと思いますが、個人的にはトレーニング後にストレッチをした方が睡眠の質も上がる気がしています。

ポージングに関して

環境的にあまり近くにビルダーがいないのでポージングも基本的には一人で練習しています。もし他の選手が近くにいたとしても他の人に自分のトレーニングやポージングをとやかく言われるのがイヤというのもあるのでやはり変わらず一人での練習が多くなると思います。デビュー戦から独学で風呂場の鏡で練習してました。ただ、近くにポージングを教われる環境がある人は教わった方がいいと思います。

自分はまずアウトラインを作ることを重視してます。ポージングがあまりうまくない人を見るとどこか一か所を意識しすぎているあまり、全体のシルエットで見たときにバランスが悪くなり崩れてしまっている事が多い。まずは全体の形を作ってから力を入れるべきところは入れて、抜くところは抜くほうがいい気がします。

日頃の食事とサプリ

オフのときは他の人に比べて意識は低いかもしれませんが、タンパク質だけは多く摂ろうと考えてます。
普通の食事の後にプロテイン飲む程度なのですが。体質的に太りやすいので一日三食に限っていて、食事の合間にBCAAを飲むこともありますがそれ以外は制限なく比較的自由に食べています。あとは香川県なのでうどん屋さんがすごく多く、コンビニと同じくらいあります。個人店がほとんどでチェーン店の7割くらいの値段で食べられるしどこも美味い。家から近いこともあり、ぼっこ屋というお店が特に好きです。

トレーニング中はBCAAを30g摂ってます。グロングのアセロラ味が好きです。あとはクレアチンを20g、モノハイドレードでAmazonの安いやつです。プロテインはトレ後に取ることもありますが基本的には食事からタンパク質を摂るようにしてます。

グロング BCAA アセロラ味1㎏

最近の気づきや発見

際立った発見ではないのですが、トレーニングをコツコツやることが大事だなと。一回のトレーニングだけだとそんなに大きくは変わらないなと感じるようになりました。自分と同世代の選手に多い気がしますが、メンタルに影響されてトレーニングを変えてしまう事も多いように思います。そうすると伸び悩んでしまう。基本的には同じことをやっていく中で重量や回数を伸ばしていくのが原則で、メンタルの浮き沈みもあるかと思いますが意味もなく気分でトレーニング法や種目を変えない方が良い。
自分は多少イヤなことがあってもそれはそれとして割り切ってトレーニングに持ち込まないようにしてます。やはりそういった意味でもセットに入ったら無意識に余計なことを考えず無心でできるようにすることが大事だと思います。

今後の方向性や目標

全日本ジュニア優勝を目指して取り組んでいきます。それと、2021年に初めて出た香川選手権で4位。そこから3年連続で同大会4位なので今年はそのジンクスを打ち破ってどちらも優勝したいです。長期の視点だとボディビルも人と競うものなので結果としての計画性が立てにくいですが、日本選手権のような大きな舞台でも活躍できるような選手になりたいです。

チャンスは見えないだけでどこにでもある

これを読んでくださった方や日頃YouTubeを観てくれている方に、とにかく諦めないことの大切さを伝えたいです。自分はあまり才能がある方ではないと思っていますが、それでも諦めなければチャンスはある。チャンスは見えないだけでどこにでもあるものです。ただ闇雲に物事を続けるのではなく、良くなりたい、強くなりたい、勝ちたいという高い向上心をもって取り組み続けることでチャンスを拾い上げることができるようになる。自分もそうできるように頑張っていきます、応援よろしくお願いします。

取材・文 せきぐち